Vol.9 天寿酒造「大吟醸 天寿」(秋田県)


天寿酒造さんには助けてもらった思い出がある。
私の仕事は茶懐石の出張料理なのだが、茶事では酒が3度ほど供される。亭主は道具には何百万もかけるのに、食事中の酒にはとんと無頓着な方が多く、残って何カ月も常温で置いたものや、ただ有名だからと買ってこられることが多い。



あまりに悲しいこの現実に、粘り強く特定名称酒の話や季節酒などがあることや、実際に自分がおいしいと思う酒をプレゼンしていくうちに、やっと出張料理のほかに酒のセレクトも任せていただくようになったのだが、 そんな折、一献目に出した某大吟醸が正客(一番偉いお客様)のお口に合わず、しばし席が緊張したことがあった。

お酒は嗜好品、次もお口に合わなかったらどうしよう…と、2献目で天寿酒造さんの「純米吟醸 鳥海山」を出したところ、すぐに燗鍋に入っている酒の銘柄を聞いてこられ、「これはうまいね、香りと味のバランスが絶妙だ」と美味しんぼの海原雄山のようなコメントを発したかと思ったら、今度は料理も急にほめはじめ、その後場は和やかに進んでいった。まさにマリアージュ…、ほっと胸をなでおろしたのであった。そのご正客は、きけば秋田出身で鳥海山の美しさと水のきれいなことをずっと席中語っておられた。


合鴨の田を案内する佐藤杜氏

その伏流水で醸されているのが天寿酒造の酒たち。ちょうどこの週末、その水源をトレッキングするという蔵の企画に参加できたが、マイナスイオンを浴び、湧き出る水をそばからグビグビ。すっと体に浸透してかなりのデトックス効果だった…はず。そしてラッキーなことになかなか姿を現さない鳥海山をくっきり拝むことができたのだった。やっぱり日頃の行いね…ふふっ。

このお蔵は22年前から無農薬栽培にも取り組んでおり、現在は合鴨農法を実践されている。その現場にもお邪魔したが、御覧の通り、鴨たちも大きくなり役目を終えてのんびり水遊びをしていた。


役目を終えてくつろぐ合鴨ちゃん

さて、助けられたご縁で色々天寿酒造さんのお酒はその後も飲んでいるのだが、一番愛してやまないのが「大吟醸 天寿」だ。柔らかなタッチと上品な含み香にもうとろけてしまいそうになる。騙されちゃいけないともう1口含めば、益々メロメロ~w。美山錦の奥ゆかしさもここまできれいに出されればお米さんも本望だろうなぁと思う次第。


今回のHENDEKI酒「大吟醸 天寿」


なんだか神々しい鳥海山

データ
大吟醸 天寿 720ml
価格:2552円
アルコール度数:16度以上17度未満
原料米:天寿酒米研究会産「美山錦」
精米歩合:40%

天寿酒造株式会社
http://www.tenju.co.jp/

レポート:入江亮子

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