Vol.3 寺田本家(千葉県)


一昔前とは異なり、これだけインターネットや流通が発達すると、そこに親類縁者もなく、旅行にすら行ったことのない土地の地酒でも東京で飲むことができます。
その結果、「私は○×県の~が好き!」と、誰かが宣言したマイナーな銘柄のお酒でも、「あぁ、それおいしいよね。」などと同調する人が現れ、好みが似ている人から紹介されたお酒を求め、また味わう…と、どんどんテリトリーが広がったりして、それはそれで楽しかったりします。
その一方で、一部で熱狂的なファンがいながらも、「えっ、これって…」と顔をしかめる人がいるお酒があります。そんな日本酒『醍醐のしずく』を作っているのが、千葉県香取郡神崎町にある蔵元「寺田本家」さんです。



寺田本家の看板は「自然酒」、仕込みは伝統的な生もと造りです。特にこの『醍醐のしずく』は、生もとの原型とも言われ、天然の乳酸菌と酵母菌を使う「菩提もと」による仕込みのためなのか、瓶によっては相当酸っぱくなっています。私がお話を聞いたある酒販店さんも、「あそこのお酒はたまに漬物みたいになっている。」と、ちょっとこぼしていたし、製品に付いているしおりにも「仕込み時期によって味の違いがあり、変化する生きたお酒です。」との断り書き(?!)が書かれているほどです。では、そんな出来の違いがあるお酒が人々に愛されているのは、なぜなのでしょうか。

寺田本家で作るお酒の原料となるお米は、近くの農家さんが作った無農薬米、水は蔵から湧き出る地下水を使用しています。そして、仕込みは蔵人総出で唄を唄いながら行うそうです。「楽しくお酒を造ることで微生物と響き合い、できてくるお酒にも楽しい気が伝わり、それを飲んだ人やその場にも楽しい気が満ちて欲しい。」というはっきりとした強い思いが伝わったことが、寺田本家を応援する人が増えた理由の1つと考えられます。



寺田本家を中心に年に1度行われる「お蔵フェスタ」は今年も大盛況で、天候に恵まれたこともあり、昨年の2万人を超える人々が千葉の小さな街、神崎を訪れました。また、単なる観光だけでなく、この地に移り住み、パンや豆腐など発酵を営む若者も増えつつあるようです。
そんな、街全体を発酵させようと盛り上がっている寺田本家のお酒は、現代の一般的な日本酒造りの王道とは少し外れているかもしれませんが、これだけの支持があればこれからも進化を続けていくのではないかと、一ファンとして期待して見守っていこうと思っています。


株式会社寺田本家
http://www.teradahonke.co.jp

レポート:佐藤美代子

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